東京高等裁判所 平成11年(ネ)735号 判決 1999年6月29日
控訴人(原告) X
右訴訟代理人弁護士 谷眞人
同 西口伸良
被控訴人(被告) 株式会社日本興業銀行
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 芦刈伸幸
同 星川勇二
同 緒方義行
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、二八〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
控訴棄却
第二 本件事案の概要は、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要及び争点」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、当審における証拠調べの結果を考慮しても、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決の事実及び理由の「第四 当裁判所の判断」欄に説示するところと同じであるから、これを引用する(ただし、原判決書二枚目表五行目の「別紙目録記載の割引興業債券一二通(額面合計四四一六万円)」を「割引興業債券一二通(内訳、(一)額面一〇〇〇万円二通、同五〇〇万円一通、同一〇〇万円三通・以上額面合計二八〇〇万円、(二)額面一〇〇〇万円一通、同五〇〇万円一通、同一〇〇万円一通、同一〇万円一通、同五万円一通、同一万円一通・以上額面合計一六一六万円)」と改める。)。なお、控訴理由に鑑み当裁判所の判断を、念のため以下のとおり付言しておくこととする。
控訴人は、「(一)控訴人が購入した割引興業債券は前記の一六一六万円分及び本件で問題となっている二八〇〇万円分(以下「本件割引興業債券」という。)のほかにも、平成一一年現在において数度の書換を経て、(1)四四〇八万円分、(2)三四三〇万円分、(3)七一〇万円分の各割引興業債券を有しているが、これらの割引興業債券はいずれも一年間で満期が到来するものであったことから、控訴人は満期が到来する度に被控訴人本店に赴き債券の書換手続をしていたものであるところ、一六一六万円分の満期は平成八年九月一二日であり、本件割引興業債券は同年八月一二日が満期であった。控訴人は、高齢で健康状態も必ずしもよくなかったので、たびたび書換手続のために被控訴人を訪れるのは苦労であったことから、一六一六万円分と本件割引興業債券とを一括して書換えようとして、平成八年八月二八日に被控訴人本店に赴いたのである。一六一六万円分の書換えのためのみに赴いたとすれば、満期前の利息分を放棄して書換えをしたことになり不自然である。(二)控訴人は、平成九年七月になって、書換えの時期が迫ったことから確認したところ二八〇〇万円分の本件割引興業債券がないことに気付き、同年八月二八日及び九月二九日に被控訴人の係員に確認したが後日連絡するといわれたまま経過した。同年一一月、控訴人は、被控訴人本店において、債券部課長のBから二八〇〇万円分の不明分があること、その内訳は一〇〇〇万円券二枚、五〇〇万円券一枚、一〇〇万円券三枚である旨の回答を得、平成一〇年二月控訴人が娘と共に被控訴人本店を訪れた際にも、右Bは不明分の二八〇〇万円の債券はそのままになっているが、無記名債券であり誰のものか判明しないので交付できない旨回答した。控訴人以外に不明券の所有を主張するものがいない以上、右不明券は控訴人のものである蓋然性が高いというべきである。」旨主張し、証拠(甲五ないし七(枝番を含む))によれば、控訴人は右(一)の(1)ないし(3)の割引興業債券を有していることが認められる。
しかしながら、控訴人が右(一)の(1)ないし(3)の割引興業債券を有しているからといって、同人が本件割引興業債券を有していたことや平成八年八月二八日に被控訴人に本件割引興業債券を書換えのために交付したことを推認することはできない(控訴人は右(一)の(1)ないし(3)の割引興業債券については、平成八年の書換え以前の債券計算書を提出しているが、本件割引興業債券については、平成八年以前の書換えの際の債券計算書を提出していない。)。また、期限の一〇日以上前に一六一六万円の割引興業債券を書換えたことから、それと同時に本件割引興業債券の書換えのために控訴人が被控訴人に交付したと推認することもできない(控訴人は、右(一)の(1)についてもたとえば平成八年六月一二日満期のものを同年五月二八日に書換えている(甲五の一及び二の各一)。)。そして、被控訴人は、債券の書換え手続においては旧券に換えて交付する債券(及び現金)を計算書と照合しつつその場で顧客に確認してもらっている旨主張しているところ、通常銀行の担当者が、窓口において顧客から債券の書換え手続の申出を受けた場合、その場で申出にかかる債券について確認をするのが窓口事務における取扱上の常態であるものと考えられ、控訴人自身も、書換え前の段階では今回を除いては声を出して証券の金額と枚数を確認していた旨を供述(原審)しているのであり、今回に限ってその確認をしなかったと認めるべき特段の事情をうかがわせる証拠もない。まして控訴人は多額の割引興業債券について継続的に書換えを行ってきた顧客であることからすれば、控訴人に対して右の確認をしなかったものとは考えがたいことであり、控訴人においても満期の異なる多数の割引興業債券を有し、満期毎に書換え手続きをとってきたものであるなら、各割引興業債券毎に管理してきたものと考えられるのに、控訴人は、被控訴人の担当者から書換え後の割引興業債券の交付を受けた際に、書換え後の債券の確認をしなかったというのであり、しかも、平成八年八月二八日に書換えの手続をして、新しく交付を受けた債券等を自宅に持ち帰って保管して約一年を経過した後の平成九年七月になって初めて、本件割引興業債券を書換えのために交付したのに書換え後の新しい割引興業債券の交付を受けなかったことに気がついたというのであって、そのようなことはにわかに信用しがたいことといわなければならない。また、控訴人は、控訴人が確認したのに対して被控訴人係員が二八〇〇万円の債券の不明分があることを認めたというのであるがその主張のとおりであるとすると、被控訴人は二八〇〇万円という高額の割引興業債券が不明分として平成八年八月二八日から平成一〇年二月ころまで未解決のまま保管していたということになるのであるが、仮に不明債券があったとすれば、額面額がかなり高額の割引興業債券でもあるから、被控訴人においても相当厳重な調査がなされたものと考えられるところ、乙二、四号証(いずれも民事訴訟法一六三条に基づく控訴人代理人からの当事者照会に対する被控訴人代理人からの回答書)によると、平成八年八月二八日当日及びその前後ころに被控訴人本店において不明債券が発生したことはないというのであり、被控訴人の保管するデーター(債券計算書)には、取引日を平成七年七月二八ないし二九日とし、満期を平成八年八月一二日、買上債券を一〇〇〇万円二枚、五〇〇万円一枚、一〇〇万円三枚とするものは存在しないというのである。結局のところ、本件において控訴人が額面合計二八〇〇万円の本件割引興業債券を被控訴人に預けたのに、被控訴人はこれを控訴人に返還していない旨の控訴人の主張事実については、控訴人の供述中にはこれに副う部分が存するものの、右供述の信用性にははなはだ疑問があることは原判決が事実及び理由の「第四 当裁判所の判断」欄において説示するとおりであり、さらに右供述を裏付けるに足りる的確な証拠はないので、右供述から控訴人の右主張事実を認めることはとうていできないといわなければならず、その他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。控訴人の主張は採用することができない。
二 以上によれば、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 川口代志子)